革のこと

エンジニアブーツのつま先の鉄(スチール)を取り外す

革のこと

修理のことを一つ。

エンジニアブーツって重いですよね。それもそのはず、全体的に厚みのある革で作られていますし、靴底に使われているゴムも、厚く密度の高い丈夫なものが使われているからです。さらにその重みに加わっているのが、つま先に入っている鉄です。、町歩きする時にはおそらく必要な場面に出くわすことはないでしょう。あるとすれば、何か硬いものにつまづいた時か重いものを落としてしまった時。しかしそんなことはまずないでしょうし、ファッションアイテムとして着用し、歩行するにはどちらかといえば不要なものです。

なのでそれを取り外してしまうという、今回の修理。しかし当工房としては実はあまり気の進まない修理ではあります。なぜかというと、この修理、基本的にオールソールと言われる靴底を全面張り替える修理が必要になってくるのですが、その際に必要になってくる靴底を縫い付ける工程を担う靴用ミシンがないからです。靴底縫いミシンがなければ手縫いで、ということになってしまうのですが、このエンジニアブーツなどのワークブーツに使われている底材は分厚いゴム素材でできているものがほとんどで、それを手縫いで縫うことは非力な僕ではできません。

といことで、今回は、「オールソールをせずにできる場合のみスチール抜きをやります」という修理。知り合いだからできる受け方ですね。今回の修理するブーツはこちら。

チペワのエンジニアブーツです。こちらのブーツ、所有者は女性なのですがレディースのものがなくてメンズの一番小さいサイズの24cmを購入したとのこと。しかし、実際の足のサイズはそれよりも1cm以上小さいみたいで、中敷を入れてフィットさせているそうです。しかし氏写真が綺麗じゃないですね。もっと見やすく取れるように勉強しないといけませんね。背景のビニール板も、僕が見慣れすぎているだけなのかもしれませんが、なんかいい雰囲気を醸しているとは思えません。

このブーツのつま先に入っている鉄の芯を抜きます。まずは縫いをほどきます。

どうやってもいいと思いますが、とにかく本体にダメージが出ないように抜いていきます。ここでは出し縫いの糸を抜いていきます。出し縫いとは、靴底を本体に取り付けるための縫いのことを言います。上の画像のように、靴底にその糸が見ていることがあります。

出し縫いが外せたら、今度は掬い縫いの糸を抜いていきます。

 

上の画像でいうと、パカッと開いた部分の上側、シャンプーハットのように靴のふちの周りに取り付けられている平たい紐のようなものと、それと接している本体が、糸で縫い付けられています。このシャンプーハットはウェルトと言われるパーツで、本体と靴底を直接縫い付けるのは構造上難しいため、これを噛ませることで靴底を縫い付けやすくしたのだと思います(マッケイ製法という靴底と本体を直接縫い付ける製法もあります)。また、本体とではなくウェルトと靴底を縫い付けることによって、靴底が消耗した時の修理がしやすくなるというメリットもあります。ウェルトをはずしたら…

こんな感じでパカッと開きます。本体のつま先部分がスパッとカットされているように見てますが、実際はめくってあるだけです。そしてこの画像、中に入っているスチールを抜いた後の画像になっています。上から本体(アッパーと言います)、内張に被った先芯(この上にスチールが被せてありました)中底、ウェルト、本底の順になります。スチールは次の画像のこんな感じ。

抜き取った鉄を後から戻してみた

今回は、オールソール交換することなくつま先の鉄芯を抜くことができましたが、ウェルトや中底、中物などが劣化していた場合はmールソール交換しなければなりません。しかし今回は痛みが少なかったため、元のソールそのままにスチール抜きをすることができました。

この鉄芯を抜き取った後には、隙間ができないように革を入れます。スチール芯はつま先保護のためでしたけど、今度入れる革はつま先の形状を保つためのもの。もちろんスチールほどではありませんがつま先をダメージから守ってくれます。

革を入れ、まずはウェルトと本体を、同じ縫い穴を利用して縫い付け、それができたら今度はウェルトと靴底を元の穴で縫い合わせます。で完成。

元とは糸の太さと素材が若干異なりますが、着用に問題はないでしょう。

というわけで、今回のスチールの芯を抜く修理、料金は10000円(税別)でした。全て手縫いでの加工しかできないので相場よりも少し高いかもしれません。出し縫い機ほしいなあ。